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2011
0516
Mon
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【*桜花咲きそめにけり*】 *第二十五幕*

そろそろ梅姫様編の佳境に入りまする。







爽子が目を覚ましたのは、その日の晩のことだった。


何時間も爽子の白い手のひらを握って見守っていた翔太は、ゆっくりと開かれる爽子の瞳をじっと見つめていた。



「……気分はどうだ?」



「…………しょ…た、さま……?」



爽子の視界にぼんやりと翔太の姿が映った。

少し汗ばんでいた爽子の額を優しく拭って、翔太はふわりと微笑んだ。



「…あの……わたくし、…どうして……?」



「覚えてないか?昼間、貧血で倒れてから、ずっと眠っていたんだ」



爽子が布団から身を起こすのを手伝っていた翔太が、マルに千鶴を呼んでくるように声を掛けると、「にゃあ」と一声鳴いたマルが襖の隙間からスルリと部屋を出ていった。




「…姫様、お腹は空いてらっしゃいませんか。千鶴が粥を用意していると思いますが…」


「……そうね。お粥くらいなら、食べられると思うわ」


綾音が汗ばむ爽子の額や首筋を布巾で拭っていると、ちょうどマルと共に千鶴が部屋に入ってきて、出来立ての温かい粥を盆に乗せて持ってきた。



「あぁ、姫様…!よかった…。目を覚まされたのですね!」


「千鶴ちゃん、心配かけてごめんね。翔太さまや、綾音ちゃんも、お世話してくれてありがとう…」


千鶴が瞳を涙で潤ませながら爽子に抱きつき、しきりにお腹は空いていないかとか、白湯もあるが喉は渇いていないか、等とひっきりなしに問いかけるので、見かねたマルがたしなめるように「にゃあ」と前足を千鶴の膝に乗せて一声鳴いた。



「ふふ、ありがとう千鶴ちゃん。たくさん眠ったら、すっかりお腹が空いてしまったわ。お粥を頂こうかしら。…ああ、白湯も一口頂いてもいい?」


「はい、はい!あ、お粥は出来立てでまだ熱いので、火傷しないようにお気をつけください…」



白湯を一口飲んだ爽子に、千鶴が粥が盛られた器を手渡した。


いつの間にか姿を消していた綾音がどこからか戻ってきて、抱えていた薄紅色の衣を爽子に差し出した。



「姫様、少し汗をかいておいでのようですので、お召し物をお取り替えいたしませんか。病み上がりですし、わたくし共でお着替えをお手伝い致しますよ」


「ありがとう、綾音ちゃん。じゃあ、お願いするわね」


「…というわけで、ご子息様、少々席を外していたたけますか。姫様がお召し物をお着替えになりますので」


「あぁ。ついでに御所に居る龍に文を出してくるよ。まだ爽子が目覚めたことを知らないから…」



翔太が立ち上がり、襖を開けて部屋を出ていった。
















「……今日、御所で小耳に挟んだんだけれどね。爽子姫様が、貧血で倒れられたそうだよ」



同じころ、胡桃沢の屋敷には健人が梅の部屋に訪れていた。




「……それが、なにか?わたしには関係のない話だわ」



「……果たしてそうかな。この前、どこかの検非違使(けびいし)を雇って、なにか仕向けていただろう」


「……それと、爽子姫様のこととは何も関係ないわ」


「……数日前に、四条の爽子姫様の屋敷に、数本の矢が打ち込まれていたらしいね。調べさせてみたら、そなたが雇った検非違使は、御所の中でも一番の弓矢の名手だそうだよ」



「………っ!…それがなんだっていうのよ。私が犯人だとでも言いたいの!?」




梅が荒々しく立ち上がり、険しい顔でジロリと健人を睨み付けた。

健人は梅とは対照的に涼しい顔で湯呑みに口を付けて、一口茶を飲み込んだ。



「………風早のご子息さまのことは、そろそろ諦めたほうがいい」



途端に梅の頬がカアッと赤く染まり、ぐっと泣くのを堪えるように俯いてしまった。




「…そなたがどんな手を使って風早のご子息を手に入れようと足掻いても、無駄なことだよ。…なにより、爽子姫様を傷つけることを、ご子息は決してお許しにならないと思うけれどね」



俯いていた梅の足元に、ポトリと水滴が落ちた。

足元の畳がじわじわと涙で滲んでいくのを見つめていた健人は、ふっと呆れたように苦笑いした。




「……もう、楽になっていいのではないかな。あんまり意地を張っているのも、ひどく疲れるだろうに」




小さく肩を震わせて泣いている梅をそっと胸に抱き寄せて、健人は梅の耳元で優しく囁いた。





「………俺が、いるよ」






「…俺なら、こんなふうに梅ちゃんを泣かせたりなんかしない…」



涙に濡れてぐしゃぐしゃになった梅の頬をふわりと指先で拭い、瞼にひとつ口づけを落とすと、健人は梅の腰に回した腕にギュッと力を込めた。






「………こんど他の女に手を出したら、許さないわよ」




むぅっと頬を膨らませて上目遣いで見上げてきた梅に、くすりと微笑んで、健人はその桃色の唇にそっと口づけた。













つづく



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