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2010
0713
Tue
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【*桜花咲きそめにけり*】 *第十五幕*

平安パロシリーズ第十五幕です。


昨日は本誌発売に浮き足立って、すっかり平安パロを更新するの忘れてましたw
せっかくの毎日更新記録が途絶えてしまったw地味にショックw

だってだって風爽が…!あの子ら可愛すぎるんだってばよ!
まあ、本誌の感想はまたあとで別の記事でうぷりますがw
日付が変わる前には上げたいですー。




ではでは、本編は追記からー。














「………汚い手でさわらないで!」



頬に触れられていた健人の手をぱしんと払い除けて、梅は大きな焦げ茶色の瞳を吊り上げて、キッと健人を見上げ睨み付けた。



「何度も言わせないで。わたしがあんたのものになることなんて、これから先、地球がひっくり返っても絶対に有り得ないわ」


「…わからないよ。失恋で傷心に暮れるそなたを、俺が優しく慰めて、そこから二人の愛の物語が始まるかもしれないし」



「………あんたと話してると、頭が痛くなってくるわ」



はぁ…、と面倒くさそうにひとつため息を吐いて、梅は中身が残り少ない湯飲みを手にし、口を付ける。



「…あんたには、昔のあの一件でほとほと愛想が尽きたのよ。…今さら、何を言っても無駄よ」


「だから、あのことはそなたの誤解だと何度も言ったじゃないか」



珍しく口調を荒くする健人をじろりと一瞥して、梅は「まったくもって信用ならない」とでも言いたげな顔をする。



「本当なんだよ。そなたに嘘なんか吐くはずないだろう。あの姫様は、俺の友人との間の恋に敗れて、傷心していたところをたまたま俺が慰めの言葉をかけてやっただけなんだ」


「……慰めるだけなのに、初対面の姫様の肩に腕を回す必要がどこにあるのかしらね」


どこか拗ねているように頬を膨らませる梅の様子に、健人は、おやっというように目を丸くした。



「……嬉しいな。そなたは俺にやきもちを焼いてくれていたのか」


「…そんなわけないでしょ!勝手に自惚れないでよ!」


にやにやと頬を弛ませる健人の言葉にハッとして、梅はほんのり頬を赤く染めて慌てて否定する。



…そして、梅はあの日のことを思い出していた。


風早翔太と初めて出会った、あの桜舞う季節での大切な記憶を。









三浦家の子息の健人と、胡桃沢家の大君の梅は、幼い頃からの幼馴染みで、それと同時に親同士に決められた許嫁の仲であった。


梅は、親の出世云々が裏にある勝手な縁談に、さほど不満も感じてはいなかった。どこぞの誰かも知らない全くの他人のところへ嫁に行くよりかは、幼い頃から慣れ親しんだ健人の許へ嫁ぐほうが、よっぽど気が楽だったからだ。


梅にとって、健人はこの世の中で唯一の心が許せる大切な存在だった。

父親とその不倫相手との間に産まれた梅は、父親の本妻が病でこの世を去るまで、「泥棒猫の娘」として世間から大層疎まれて生きてきた。
本妻の後釜には必然的に梅の母親が収まり、本妻との間に子供がいなかった父親の義理の娘になった梅は、『胡桃沢家の大君』として、それまでの不遇な人生から早変わりした、周囲から大事に敬われる存在になっていったのである。


だが、そんな中で胡桃沢家の屋敷に入ってからも、梅に対しての非難中傷はどこからともなく耳にすることが絶えなかった。
父親の方の親戚の叔母から母親に送られた、嫌味な手紙をたまたま目にしたときもあったし、表面上は優しげな笑顔で世話をしてくれる胡桃沢家の女房たちが、梅の居ない所で梅のことを好き勝手にべらべらと悪口を交わし合う現場を目撃したこともあった。


そしていつしか、梅は人間を心から愛することができなくなった。


本妻がいるにも関わらず、だらしなく自分の母親にも手を出した父親に対しても。

自分が嫌な立場に置かれると解っていながら、父親と関係を持った母親に対しても。

顔を合わしたときには笑顔で優しい言葉を吐くくせに、裏では汚い言葉で自分を罵っているたくさんの女房たちに対しても。


梅にとっては、誰ひとりとして信用のできる人間がこの世の中に存在しなかった。


それ故に、いつもどこか心にぽっかりと大きな穴が空いているような、悲しい空虚感に苛まれながら日々を過ごしていた。


そんな日々の中で、突然目の前に現れた健人は、梅の心の中に光をもたらした、ただひとつの希望のような存在であった。

健人と出逢ったのは、梅が七つの頃だった。
胡桃沢家に招かれた三浦一家が、梅と同い年だという幼い健人を連れて、「末永いお付き合いをよろしく」と梅の両親と固く握手を交わしていたのを覚えている。


初めて会ったときに、健人を見て『綺麗な蒲公英色の髪をした男の子だな』という印象を持った。

今時珍しい髪色をしていた健人の明るく黄色がかった髪は、縁側から射し込む陽の光を受けてきらきらと輝いていた。

そんな光景に梅が心を奪われていると、健人が人の良さそうな満面の笑顔を浮かべながら、梅に声を掛けた。




「瞳の奥が、綺麗に澄んだ色をしてる。…梅ちゃんは、きっと純粋な女の子なんだね」






…そんなことない、と梅は思った。

家の女房たちや、隣にいる両親たちのことでさえ、軽蔑の目を向けてしまっている自分など、決して純粋な心を持ってはいないと。


…だけど、そんな醜くて汚ならしい自分に、そんな優しく言葉を掛けてくれたのは、今まで生きてきたなかでただひとり、目の前の健人だけだった。



その瞬間、梅の世界はなにもかもが変わった。


灰色に澱んで見えていた世界は、急に色を変えて虹色に光り出して、梅は生まれて初めて生きるのが楽しいと感じた。

健人は、箱入り娘だった梅に色んな世界を教えてくれた。

外の世界を知らない梅に、綺麗な四季の風景を観せてくれたのも、

得意の縦笛を吹いて素敵な音色を聴かせてくれて、梅に高価な琴を贈り、弾けるようになるまで弾き方を教えてくれたのも、


…はじめて、ひとを愛するという気持ちを教えてくれたのも、ぜんぶぜんぶ健人がいたからだった。





二人が少しずつ絆を深めていきながら、季節はどんどん巡っていき、健人と梅は十四歳になっていた。


その日、梅は毎週恒例になっている、三浦家で開かれる活け花の教室に向かっていた。

通い慣れた道を歩いていたときに、どこからか聞き慣れた低く耳馴染みの良い柔らかな声色が聞こえてきた。

久しぶりに会う許嫁に一声掛けようと、声が聞こえてきた方向に生えている草木の垣根の向こうに、首を覗かせる。


その瞬間、梅の中で時が止まってしまったような感覚が走った。


どこか知らない屋敷の縁側で、並んで座った見知らぬ姫と健人が、身を寄せ合って何かを囁き合っている。

途端に、姫はさめざめと嗚咽混じりに泣き出してしまい、健人は慣れた仕草で姫の肩に腕をまわし引き寄せた。



それ以上、その光景を見ていられなくて、梅は弾かれたように踵を返して元来た道を引き返した。


のろのろとおぼつかない足取りが、次第に小走りになり、乱れる呼吸をそのままに自分の屋敷まで無我夢中で走った。





………あれは、なに?



わたしが見たものは、いったい何だったの…?




家に着いてから、梅は明るかった空が夕日に陰るまでの長い時間を、自分の部屋に閉じ籠り冷たい涙を流し続けて過ごした。

先ほど見てしまった光景を信じたくないという思いと、間違いなく自分の目で現場を目撃してしまったのだから、あれは紛れもない真実なのだという、諦めの気持ちが梅の中でぐるぐると渦巻いていた。

ふと部屋の隅に目をやると、幼い頃に健人から贈られた琴が大事そうに飾られている。


梅の心に、じわじわとどす黒く醜い感情が広がってゆく。


無意識のうちに立ち上がり、綺麗に手入れが成された琴を両手で持ち上げると、梅は全身全霊の力でそれを床に叩き落とした。

衝撃を受けて、木の塊が大きな音を立ててバラバラと砕け散ってしまった。



ずっとずっと、大事にしてきた琴だった。


どんな辛いことや嫌なことがあっても、この琴を奏でれば脳裏に健人の笑顔が浮かび、たちまち優しい気持ちになれた。


心から、たいせつにしてきた。


この古い琴も、誰にも明かすことなく内に秘めてきた、健人への大切な想いも。



なにもかもがどうでもよくなって、梅は着の身着のまま薄紫に染まった夕空の下に飛び出した。


当てもなく走りながら、気づけば健人とよく散歩に来ていた河原に来ていた。

こんなときでも、無意識にこの場所に足が向いてしまう自分がほとほと嫌になる。


これからどうしたらいいのか、途方に暮れていた梅の後ろ姿に、どこからか聞き慣れない声が掛かった。








「…こんな時間に、こんな場所で…一人きりで、どうかした?」










第十六幕につづく


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